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ダン・ペン & スプーナー・オールダム 来日記念特集 ~ピーター・バラカンが語る、「独特のグルーヴと深み」の世界



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 ソウル/ロックの聖地、マッスル・ショールズを拠点に数々の名曲を生み出してきたダン・ペンと、そのマッスル・ショールズのサウンドを支えたキーボディスト、スープナー・オールダムの待望の来日公演が実現。彼らが紡ぎ出した名曲の数々、その色褪せない魅力をピーター・バラカンさんが語ってくれた。

新しい時代へ贈る、ヴィンテージ・ミュージック

−−まずは、ダン・ペンとスプーナー・オールダムの初来日公演を振り返っていただけますか。

ピーター・バラカン:最初に来たのは1999年、東京の会場は九段会館でした。ダン・ペンの歌と生ギターに、スプーナーの弾くエレクトリック・ピアノ、あとは二人のハーモニーだけ。実に素朴ですが、どの曲もやっぱり素晴らしい。

−−まずは、ダン・ペンとスプーナー・オールダムの初来日公演を振り返っていただけますか。

ピーター・バラカン:彼らは60年代を中心に、ポピュラー音楽の歴史に残るソウルの名曲をいくつも作ってきましたから。その張本人たちが、ソウル・ミュージックが一番輝いていた時代の空気を、シンガー・ソングライターのような佇まいで鳴らすわけです。ダン・ペンの歌声はソウルそのものだし、侘び寂びにも通じる渋い感性をもっている。そこにスプーナーの鍵盤が重なると、独特のグルーヴと深みが出る。100パーセント満足できる演奏でした。

−−1999年のライヴ盤『Moments From This Theatre』からも、その空気は伝わってくる気がします。

ピーター・バラカン:そのとき、日本でやったライヴとほぼ一緒ですよ。演奏している曲もだし、雰囲気もそう。彼らのコンサートを観たら、必ずと言っていいぐらいお土産としてほしくなる。



−−おそらく今回の公演も、長年のソウル・ファンが大勢駆けつけると思いますが、そうでない人が真っさらな状態で臨んでも感動しそうなパフォーマンスですよね。

ピーター・バラカン:アリーサ・フランクリン、ジェイムズ・カー、ボックス・トップス、ジェイムズ&ボビー・ピューリファイなど、60年代にマスル・ショールズで録音した多くのミュージシャンが彼らの曲を取り上げてきた。60年代のメンフィス・ソウルが好きな人なら、間違いなく知っている曲ばかり。今の若い人は正直言って知らないと思いますが、初めて聴く人でも曲の良さはわかるはずです。

−−ピーターさんが執筆されたライヴ評(※)には、「街ですれ違ったら気がつかないようなこの二人が一度演奏し出したら、涙が出そうなほどのエモーショナルなものを感じたのは、私だけではないと思う」と書かれていました。
※朝日新聞 1999年12月9日の夕刊

ピーター・バラカン:そんなことを書いていましたか(笑)。そうそう、あのとき二人に取材したんですよ。九段下のホテルグランドパレスのロビーで待っていたら、向こう側からオーヴァーオールを着た人が歩いてきて。これは間違いなくダン・ペンだなと思った(笑)。アメリカ南部の出身らしい気さくな方でしたね。スプーナーはもう少し寡黙で、大学の講師みたいな感じ。

−−光景が目に浮かぶようです。

ピーター・バラカン:どちらも見た目は田舎のおじさんだけど、そこでは判断しないでほしいですね(笑)。

−−ピーターさんが初めて二人を知ったのはいつ頃ですか?

ピーター・バラカン:1967年の春に、アリーサ・フランクリンの「I Never Loved a Man(貴方だけを愛して)」のシングル盤を買ったのが最初ですね。そのB面に入っていたのが「Do Right Woman, Do Right Man(恋のおしえ)」だった。あの曲はスプーナーではなくて、チップス・モーマンとの共作だけど。レコードの盤面には作曲クレジットが書いてありますよね。僕はいつもそれを眺めているような少年だったから、ペンとモーマンの名前は印象に残ってますね。



−−そのあとは?

ピーター・バラカン:次に聴いたのは、ジャニス・ジョプリンの『Pearl』(1971年)に収録されたスプーナーとの共作曲「A Woman Left Lonely(寂しく待つ私)」かな。カントリー歌手のチャーリー・リッチも70年代にあの曲を歌っているけど、本当に大好きな曲ですね。その頃に、ラジオDJのチャーリー・ギレットが(番組内で)ダン・ペンについて話していたのもよく覚えています。「The Dark End of the Street」はたしか、ライ・クーダーの『Boomer's Story』(1972年)で先に聴いたはず。ジェイムズ・カーのヴァージョン(1967年)は、60年代の頃はまだ知りませんでした。メンフィスのゴールドワックス・レーベルの再発を手がけた日本のVivid Soundが、ジェイムズ・カーのLPを出したのが1977年ですが、それで彼のことを知ったと思います。




−−ダン・ペンのことを強く意識するようになったのはいつ頃でしょう?

ピーター・バラカン:東京に来た後、たぶん1974年だったと思います。その頃の僕はシンコーミュージックの社員で、当時は「ミュージック・ライフ」の編集部員だった会田裕之(のちに音楽評論家)と仲良くなり、よく一緒に呑みに行ってました。それであるとき、池ノ上の小さなロック・バーに二人で行ったら、ダン・ペンの最初のソロ・アルバム『Nobody's Fool』(1973年)がかかっていたんです。雨がしとしと降る夜、あの音と天候が妙に合っていました。翌日、すぐにレコード屋へ買いに行きましたよ。ダン・ペンがどんな風貌なのかも、このアルバムで初めて知りました。



−−その後は、どのようにダン・ペンの音楽を掘り下げていったのでしょう?

ピーター・バラカン:いや、僕はマニア気質じゃないから、そこで彼のことを掘り下げようという感じではなかったですね。ただ、80年代の終わりくらいだったかな。ピーター・ギュラルニックが書いた『スウィート・ソウル・ミュージック』という、サザン・ソウルの百科事典みたいな本があって。ダン・ペンがソングライターとして知られてなかった時期に、霊柩車に乗ってアラバマの田舎を走りながらバンド活動をやってたとか、フェイム・スタジオにいつも入り浸ってたとか、そういうエピソードがたくさん載っているんですよ。あれを読んで、ダン・ペンがどういう人物なのか知りました。それから1994年に、ダン・ペンが久々の新作『Do Right Man』が出るんだけど、あれは最高。

−−ピーターさんは同年の年間ベストにも選んでましたよね。スプーナーを始めとしたマスル・ショールズの盟友と一緒に、60年代に遺した名曲のセルフ・カヴァーと書き下ろし曲を録音した素晴らしいアルバムです。

ピーター・バラカン:それまではソングライターという印象のほうが強かったけど、あのアルバムを聴いて、彼の歌声はヒットしたヴァージョンとも引けを取らないと感激しました。今回のライヴでも、収録曲のほとんどを演奏するでしょう。

−−どの曲が特に好きですか?

ピーター・バラカン:(『Do Right Man』の裏ジャケを眺めながら)まあ、どれも好きだけど(笑)。ただ、「Do Right Woman, Do Right Man」は特別好きかもしれない。彼が書いた曲を初めて聴いたのがこれだったのもあって。あとは「Zero Willpower」もすごくいい曲です。「I'm Your Puppet」はいろんなヴァージョンがあるけど、ダン・ペンがライヴで歌うと抜群にいいですね。



−−シンガーとしては、どんなところに魅力を感じています?

ピーター・バラカン:彼の歌は切ない。ちょっとした強弱の使い方が、さらにそう感じさせるのかな。変にそれを意識しているわけではないと思う。あれはきっと感性ですよ。子供のときからリズム&ブルーズや黒人音楽をずっと聴いてたから、それが彼のDNAのなかに自然と入り込んじゃっているんでしょうね。でも、適度にカントリーっぽいところもあるし、そのバランスがちょうどいい。

−−ソングライターとしては、どんな特徴があると思いますか?

ピーター・バラカン:作詞家として、印象に残るキャッチーなワンフレーズを入れるのが上手です。ヒット曲を生み出すにはフックというか、一度聴いただけで覚えられる言葉をちょこっと入れるのが非常に大切で。「Do Right Woman, Do Right Man」にも、「If you want a do-right-all-day woman / You’ve got to be a do-right-all-night man」という、女と男を対比させるくだりがありますよね。シンプルだけど一回聴けば絶対に忘れない。あと、必要最小限の音しか入れないですよね。オカズが少なくてゆったりとした、でもしっかりとしたグルーヴ。そのなかに、カントリーとブルーズ、ゴスペルがいい塩梅で混ざっている。そこにスプーナーの鍵盤のタッチが重なるのが、非常においしいと思うんですよ。

−−スプーナーはこれまでに、ボブ・ディランやニール・ヤングとも一緒に仕事してきたんですよね。

ピーター・バラカン:そうそう。決して超絶技巧タイプのミュージシャンではないけど、独特のグルーヴというか、彼だけが持っている味わいがある。それがほしくてみんな声をかけるんだろうし、バックで演奏してこそ輝く人ですよね。ダン・ペンに至っては、いまや50年以上の付き合いですから。近年のダン・ペンは自主制作でソロ作を発表していますけど、そこにもスプーナーは参加していますし。

−−お互いのことを知り尽くしていると。最後に、今回のライヴはどこが楽しみですか?

ピーター・バラカン:ダン・ペンは77歳、スプーナーも75歳。もう変化は望んでません。二人の持ち味を堪能してほしいですね。彼らを好きな人は、みんなそう思っているはずです。

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