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宮本信子インタビュー~こんなにも歌うのが楽しいなんて思わなかった



インタビュー

 伊丹十三監督の妻であり、伊丹が監督した映画全てに出演する他、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』や『ひよっこ』など第一線で活躍し続ける女優・宮本信子。そんな彼女が約18年前から続けている、もう1つの活動がジャズライブだ。伊丹監督が亡くなった後、新しいことに挑戦したいという思いをきっかけにスタートしたジャズに対する思い、そして2月26日に開催されるビルボードライブ東京でのステージや、ライブ初共演となる銀杏BOYZの峯田和伸とのエピソードについて話を聞いた。

こんなにも歌うのが楽しいなんて思わなかった

――子供のころ、歌手かキャビンアテンダントになりたかったと伺いました。

宮本信子:正しくは、歌手と芸者さんとキャビンアテンダントですね。日本舞踊を習っていたので、子供の頃は舞台に出ることに憧れていました。歌うことは小さい頃から好きでしたし、美空ひばりさんの歌で育った世代です。なのでマイク代わりにホウキを持ったり、ハタキをステッキ代わりにしたりしてよく遊んでいました。

――美空ひばりさんの歌を聴くようになったのは、ご両親の影響ですか?

宮本:父は声がすごく良く、民謡が得意でした。音楽を聴くようになったのは両親の影響ではなくラジオですね。その頃の情報源は全てラジオでした。妹にホウキを持たせて三味線を弾く格好をさせて、ラジオから流れる広沢虎造の浪花節の真似をしたり。ラジオに合わせて口パクをして、2歳下の妹に「ちゃんとやるのよ」なんて言ってね。私、姉ですから(笑)。小さい頃、そうやって遊んだことを思い出しますね。

――美空ひばりさんの歌で1番好きな曲はなんですか?

宮本:「港町十三番地」です。ライブでも歌っています。「十三番地と、(伊丹)十三だ!」って思ったりしてね。何かご縁があるような気もしております(笑)。

――ライブに初めて行かれたのは、いつ頃ですか?

宮本:ライブは、いつでしょうか……。映画は、わりと小さい頃から見に行っていました。叔父が名古屋に映画館を2館持っていたので、洋画と東映の作品は顔パスで見せてもらっていたんです。映写機の回っている横で、まるで『ニュー・シネマ・パラダイス』のように。なので、小さい頃に接したエンタテインメントは、音楽より映画の方が早かったですね。ライブに行ったのは仕事をし始めてからだと思います。名古屋にアスターというジャズバーがあったのですが、仕事終わりにディレクターや俳優仲間と行って、お酒を飲みながらジャズを聴いて語り合っていました。朝まで飲んで、そのまま次のロケに行くなんていうこともありましたね(笑)。若かったし、良いものを作る気持ちがあれば労働時間なんて関係ないような時代でした。

――素敵ですね。では、そこで多くのジャズに触れられたんですね。

宮本:はい。マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ボーンなど良いレコードをたくさん聴いて、アスターでジャズを知りました。自分で歌うようになったのは、伊丹さんが亡くなってからです。伊丹さんが亡くなったあと、自分に何ができるのだろうと思いました。失敗してもいい新しいことに挑戦したかった。舞台を中心に仕事をしていこうと思っていました。1999年に小椋佳さんのBS番組『歌壇の部屋』に出演しました。生のバンドで、小椋佳さんとのデュエットを1曲、ソロを1曲歌うという番組で、お客様は100人くらいいらっしゃいました。小唄は師範の免状を持っています。真剣に打ち込んで習っていましたけど生のバンドで歌うなんて初めてです。カラオケも行きません。小椋さんと「夜明けのうた」を歌って、ソロは「聞かせてよ愛の言葉を」を歌いました。

――初ステージは、いかがでしたか?

宮本:すっごく楽しかった!もうね、こんなにも歌うのが楽しいなんて思わなかったんです!本当に楽しくって。その時のプロデューサーの方に「こんなに楽しそうに歌う人は久々に見ました」って言われました。そして、「ディナーショーをやりませんか?」って言っていただいたんです。その時は、「えー?」って言ったんですけど、内心はすごく嬉しくって(笑)。2年後くらいに初めてディナーショーをしたんです。1曲もヒット曲がないのに(笑)。

――初のディナーショーは、どちらでされたのですか?

宮本:パレスホテル東京です。

――すごいですね。

宮本:周りの皆さんからは「宮本さん、ほとんどがトークですよね?」って言われて、「まあ、そうかもしれませんね(笑)」なんて言いながら何をするか考えました。ひばりさんのジャズのCDが好きで前から聴いていたので、その中から耳に残っている曲を集めてレッスンを受けて。間が持たないので、小唄も入れて。まるで、“ごった煮”のようなディナーショーになりました(笑)。そうしたら、それもまたすっごく楽しくって。周りの皆さんは「宮本さん、大丈夫かしら」って脇から汗を出していたそうですけど(笑)、当の本人はお客様の前で歌うことが、ひたすら楽しくて。

――歌番組にも出演されたんですよね?

宮本:そうなんです。ディナーショーの前の年の大晦日にテレビ東京の歌番組で宮本信子コーナーを作ってくださることになったんです。それが、紅白の裏番組で!明治座からの生中継でした。生中継の歌番組なんて、今だったら絶対にお受けしませんけど、その時は全然怖さを知らなくて。物を知らない強さですよね。歌うのが楽しい一心で「やります!」なんて言っちゃって(笑)。芸者姿で登場して、まずは一曲「さのさ」。その時出演されていた森進一さんは1曲しか歌ってらっしゃらなかったのに、私は「花笠道中」と「テネシーワルツ」、最後は「港町十三番地」と、全部で4曲歌いました。しかも、出だしが分からないと困るので指揮の方に「(タイミングを)教えてくださいね」って言っていたんですが、いざ本番前に指揮者を見たら大道具の後ろで全然見えなくって(笑)。

――え!大変ですね。

宮本:でも、「まあ、どうにかなるか」と思って歌いました。すごいでしょ? トークをしても、皆さん笑ってくださるし、何にも怖くなかったんです。ひたすら楽しかった。今から思うと本当に恥ずかしいですし、その後に物を知らないって怖いなって反省しましたけど、その時は本当に楽しかったです。あと「こんなに楽しいんだから、舞台でも歌いたい」って思いました。『あげまん(監督:伊丹十三)』を舞台化することになって。台本を見たら、「(主人公の)ナヨコが、けだるく『As Time Goes By』を歌っている」とありました。「日本語で歌うんですよね?」って脚本の飯島早苗さんに質問したら、「いえ、英語です」って冷たく言われちゃって(笑)。そこで、色んな人の「As Time Goes By」を聴いて、辿りついたのがリー・ワイリーでした。レッスンへ行って何度も練習して、舞台でも実際に歌いました。皆さんからは、「あれって口パクじゃないの?」って言われたりしましたけれど、違うの。毎日本当に歌っていたんですよ。俳優の仕事の合間を縫ってディナーショーをしたり、浜離宮朝日ホールでも3日間コンサートをさせていただきました。そこでも、美空ひばりさんの歌を歌いましたが、「浜離宮朝日ホールで歌謡曲を歌ったのは宮本さんが初めてです」って言われましたね。そんなことをしながら、今年で18年目になります。

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何かを感じられる人間でありたい

――お芝居で舞台に立つ時と、ライブでは感覚は違いますか?

宮本:女優は仕事ですけど、歌はとにかく好きなことをしているだけですから。歌手の方には申し訳ないですけど、音楽は楽しみでしかありません。去年(2017年)5月のディナーショーで最後にしようと思っていたんです。5月に伊丹十三記念館で開館10周年を記念した中庭での無料ミニライブをして、翌日にディナーショーをしたのですが、それで歌は終わりにしようと思いました。バンドメンバーの皆さんに「これで終わりにしようと思うから、今日は飲もう!」って言って、すっごく飲んだんです。すきっ腹に飲んだので大変なことになっちゃいましたけど。で、帰りの羽田空港で「会うのは、これが最後かもしれないわね。じゃあね。」って皆とハグして別れたのに、今回のビルボードライブ東京のステージが決まって。こんなことってあるのかしらって、驚きましたね。だって、ビルボードライブのスケジュールを見たら、ジェイミー・カラム君とか井上陽水さん、桑田佳祐さんが出演されてるじゃないですか。

――ハービー・ハンコックや、ナタリー・コールも出演しています。

宮本:もう、やめてくださいよ(笑)。舞台もそうですけど、会場のイメージって、すごくあると思うんです。なので先日ビルボードライブに行きましたが、ビルボードに合うライブはどういったものなのか、お客様の顔を見ながら考えていました。後ろのカーテンって、色を変えられないんですよね。

――変えられないですね。

宮本:ついつい劇場をイメージしちゃって。あと、ビルボードには舞台袖がないんですよね。「好きなようにやってください」と言っていただいているので、今どうしたら良いのかしらと考えています。何を歌おうか、どんなことを喋ろうかを考えるのが楽しくって、毎日ライブについて考えています。

――サックスの本多俊之さんは、今回も出演されるのですか?

宮本:ええ、もちろん。芸能界で唯一の仲良しの友達ですから(笑)。本多さんは、『マルサの女』以降、ずっと伊丹さんの音楽を担当されていて、すごく長いお付き合いです。でも、こんなに仲良くなったのは伊丹さんが亡くなってからですね。お互いのライブを見に行ったり。六本木のライブハウスに出演された時も、「この日に演奏しているから」って言われたから遊びにいったら、「今日は宮本信子さんが来ています。ぜひ、1曲どうぞ!」なんて言って、ステージに上げられました。

――お客様にとっては、すごく嬉しいサプライズですね。

宮本:私も「喉が、喉が~まだ温まっていないんですけど~」って言ったりしてね。温まっていたって、温まっていなくたって、たいして変わらないんですけど(笑)。本多さんは私が行ったら絶対にステージに呼ぶので、最近では楽譜を持っていくようにしています。

――準備万端ですね。

宮本:私が歌いはじめた時、(本多)俊ちゃんは「世界各国に素晴らしい歌手がたくさんいるのに、なんでわざわざ歌うの?」って言ったんですよ。私も「そうなのよ。私も充分、分かっているのよ。だけど、私はお客様の前で歌いたいの」って言いました。そうやって2人で遊ぶのが楽しくて、できるところまで歌い続けたいなと思っています。

――本多さんが作曲、宮本さんが作詞を手掛けられた「シャンパンが抜けない」というオリジナル曲もありますね。

宮本:そうそう、私が詞を書いて俊ちゃんに曲を付けてもらうというやりとりを何曲かしていて。これも、いつもの遊びの延長ですね。そんなことをしているうちに、「シャンパンが抜けない」が生まれました。

――長いお付き合いの本多さんとのステージ、楽しみです。あと今回は峯田和伸(銀杏BOYZ)さんも出演されます。

宮本:峯田さんとは、2016年にドラマ『奇跡の人』(NHK)で初めてご一緒させていただきましたが、素晴らしい演技でしたね。“一択”という役でしたが、あの役は峯田さんじゃなきゃ考えられませんでした。そのあと2017年にNHK連続テレビ小説『ひよっこ』で再会して。彼とは波長が合うので、気兼ねなくデュエットできそうだなと思って、今回ゲスト出演のお願いをしました。以前、峯田さんからは「宮本さん、僕のライブで『Fly me to the moon』を歌ってくださいよ」言われたのですが、冗談だと思い断りましたけどね(笑)。でも、その時に「ジャズ好きなの?」って聞いたら、「好きですよ」って言っていたので、電話したら「良いですよ」って言ってくださって。私は、デュエットの経験がないので楽しみです。

――宮本さんが音楽を通じて伝えたいことは、なんですか。

宮本:私は、ただ歌うのが楽しい一心なので、何かを伝えたいことはあまり…。伊丹万作が書いた言葉だったと思いますが、「映画は、人を慰めることができる」という言葉があります。素敵な言葉ですよね。これは音楽も芝居も、スポーツも一緒だと思います。一緒に泣けたり、元気になったり、勇気をもらったり……。子供の時は、みんな同じように泣いたり笑ったりしていたのに、大人になると感じられなくなってしまう人もいますが、私は何かを感じられる人間でありたいです。また、演じる者としては、志を高く持って仕事をしたいです。色々な役の人生を深く、豊かに表現できたら…。

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